『山と溪谷』7月号 ― 2017-06-16
■晴
『山と溪谷』7月号に短い記事を書きました。
槍・穂高連峰と剱岳での遭難発生マップです。2015-16年の2年間の遭難発生場所を地図上に落としています。
同じ目的の地図は、毎年、長野・富山・岐阜3県合同の遭対連から発行されています。2017年版(データは2016年)も7月上旬ごろ出るでしょう。そこには、今回私が『山と溪谷』に掲載したものよりも、もっと詳細かつ正確な発生場所が記録されています。
しかし、北ア3県合同遭対連のマップは地図だけで、元データ(個々の遭難事例)の記載がないのです。だから個々の遭難の実例をイメージしにくいです。その点、細かい文字ですみませんが、私の作成したマップとデータは、きちんと見てもらえれば直観的にとらえやすいものだと自負しています。
この形式の遭難発生マップは、7月発売の『登山白書2017』(山と溪谷社)に、全国主要エリアのものが全面的にズラーーーッと掲載される予定です。
実は、前年の同2016年版には全国の全データを完全掲載したのでしたが、今年はいろいろ事情があって一部分になりました。
それでも、主要エリアは網羅しています。
この遭難発生マップは、たぶん賛否両論あると思います。最も考えられることは、個々の遭難の重さに対して取り扱い方があまりに軽い、というものではないでしょうか。
それは私自身も納得しています。個々の遭難事例の原因を検証したり、体験としての意味を汲み取ったりすることは、とりあえず私は関係しません。また、たやすくできることではないとも思っています。
その一方で、山岳遭難をこのように「わかりやすいデータ」として示すことは、ある意味で、現代の山岳遭難を知るうえで必要不可欠な作業だと思っています。
・だれでも入手できるデータである。
・データの集積だけを行う。データの意味はそこから自然に見えてくる。
そういう感じで、見やすさを心がけて作成しています。
基本的に、データ元となっているのは、マスコミ、インターネットだけです。複数の情報を照合して矛盾のない程度に整理したものを掲載しています。
『山と溪谷』7月号に短い記事を書きました。
槍・穂高連峰と剱岳での遭難発生マップです。2015-16年の2年間の遭難発生場所を地図上に落としています。
同じ目的の地図は、毎年、長野・富山・岐阜3県合同の遭対連から発行されています。2017年版(データは2016年)も7月上旬ごろ出るでしょう。そこには、今回私が『山と溪谷』に掲載したものよりも、もっと詳細かつ正確な発生場所が記録されています。
しかし、北ア3県合同遭対連のマップは地図だけで、元データ(個々の遭難事例)の記載がないのです。だから個々の遭難の実例をイメージしにくいです。その点、細かい文字ですみませんが、私の作成したマップとデータは、きちんと見てもらえれば直観的にとらえやすいものだと自負しています。
この形式の遭難発生マップは、7月発売の『登山白書2017』(山と溪谷社)に、全国主要エリアのものが全面的にズラーーーッと掲載される予定です。
実は、前年の同2016年版には全国の全データを完全掲載したのでしたが、今年はいろいろ事情があって一部分になりました。
それでも、主要エリアは網羅しています。
この遭難発生マップは、たぶん賛否両論あると思います。最も考えられることは、個々の遭難の重さに対して取り扱い方があまりに軽い、というものではないでしょうか。
それは私自身も納得しています。個々の遭難事例の原因を検証したり、体験としての意味を汲み取ったりすることは、とりあえず私は関係しません。また、たやすくできることではないとも思っています。
その一方で、山岳遭難をこのように「わかりやすいデータ」として示すことは、ある意味で、現代の山岳遭難を知るうえで必要不可欠な作業だと思っています。
・だれでも入手できるデータである。
・データの集積だけを行う。データの意味はそこから自然に見えてくる。
そういう感じで、見やすさを心がけて作成しています。
基本的に、データ元となっているのは、マスコミ、インターネットだけです。複数の情報を照合して矛盾のない程度に整理したものを掲載しています。
講演会のお知らせ ― 2017-06-16
奥多摩の遭難を考える ― 2017-06-29
[図1:奥多摩で「転・滑落」遭難の起こった場所(赤マーカー)]
※尾根の中腹以下または末端近く、沢沿いのトラバースルートなどで多く起こっている。沢沿いの代表例は、百尋ノ滝ルート、むかし道、水根沢林道など
■曇
≪奥多摩の遭難を考える(1)≫
日本山岳会東京多摩支部(安全委員会)の主催で、「奥多摩の遭難を考える」の題で講演会でした。50人の定員でしたが、定員以上の人数が集まってくださいました。
奥多摩の遭難の特徴は何でしょうか?
低山(標高が2000mを超えない)での遭難は、現在は圧倒的に「道迷い」が多いです。
(1) 低山なので、山道が複雑に交錯している
(2) 登山者、ハイカーの準備不足
(3) コースミスをして以後、対応をさらに誤る
大きくまとめると、この3つが「道迷い」の要因です。
ただし、(1)と(2)では「道迷い」だけで、まだ遭難に至るかどうかわかりません。(3)が重なると「道迷い遭難」となります。
奥多摩は低山なので「道迷い」が大変多いです。しかし、奥多摩の独自の特徴は、「道迷い」に加えて「転・滑落」も多い点にあります。
なぜ「転・滑落」が多いかというと、奥多摩の地形は低山のわりには意外に急峻で、至る所に急斜面があるうえ、支尾根の中間部や末端には岩場が発達しているからです。
奥多摩の急斜面や岩場は、「やさしい低山」といったイメージを越えたものです。北アルプスの「大キレット」のような派手なものではないですし、はるかに小規模ですが、それゆえ見逃されがちな危険箇所が、いろいろな所に隠されています。
奥多摩で、正規ルートの山道を歩いている限り、そういう急斜面や岩場に意識が向くことはないでしょう。しかし、分岐を誤って正規ルートを外れてしまった場合、そういう危険な場所へ誘われてゆくことが起こります。
「変だな……、おかしいな……」と感じつつ、その時点では支障なく歩けるために、多くの人は「行ける所まで……」と前進を続けます。しだいに危険な地形へ近づいて行って、そしてついに、急崖や岩場の上部に出て立ち往生します。悪いことに、崖や岩場のすぐ下は林道だったり、集落が近くに見えている、そういう状況がまま起こります。
そこまで来ると、もう引き返すことは不可能に感じるでしょう。なんとか下りようとした結果、最後の最後でスリップして「転・滑落」となります。このように道迷いに伴って起こる「転・滑落」事故は、奥多摩で非常に多いと思われます。=続く=
※尾根の中腹以下または末端近く、沢沿いのトラバースルートなどで多く起こっている。沢沿いの代表例は、百尋ノ滝ルート、むかし道、水根沢林道など
■曇
≪奥多摩の遭難を考える(1)≫
日本山岳会東京多摩支部(安全委員会)の主催で、「奥多摩の遭難を考える」の題で講演会でした。50人の定員でしたが、定員以上の人数が集まってくださいました。
奥多摩の遭難の特徴は何でしょうか?
低山(標高が2000mを超えない)での遭難は、現在は圧倒的に「道迷い」が多いです。
(1) 低山なので、山道が複雑に交錯している
(2) 登山者、ハイカーの準備不足
(3) コースミスをして以後、対応をさらに誤る
大きくまとめると、この3つが「道迷い」の要因です。
ただし、(1)と(2)では「道迷い」だけで、まだ遭難に至るかどうかわかりません。(3)が重なると「道迷い遭難」となります。
奥多摩は低山なので「道迷い」が大変多いです。しかし、奥多摩の独自の特徴は、「道迷い」に加えて「転・滑落」も多い点にあります。
なぜ「転・滑落」が多いかというと、奥多摩の地形は低山のわりには意外に急峻で、至る所に急斜面があるうえ、支尾根の中間部や末端には岩場が発達しているからです。
奥多摩の急斜面や岩場は、「やさしい低山」といったイメージを越えたものです。北アルプスの「大キレット」のような派手なものではないですし、はるかに小規模ですが、それゆえ見逃されがちな危険箇所が、いろいろな所に隠されています。
奥多摩で、正規ルートの山道を歩いている限り、そういう急斜面や岩場に意識が向くことはないでしょう。しかし、分岐を誤って正規ルートを外れてしまった場合、そういう危険な場所へ誘われてゆくことが起こります。
「変だな……、おかしいな……」と感じつつ、その時点では支障なく歩けるために、多くの人は「行ける所まで……」と前進を続けます。しだいに危険な地形へ近づいて行って、そしてついに、急崖や岩場の上部に出て立ち往生します。悪いことに、崖や岩場のすぐ下は林道だったり、集落が近くに見えている、そういう状況がまま起こります。
そこまで来ると、もう引き返すことは不可能に感じるでしょう。なんとか下りようとした結果、最後の最後でスリップして「転・滑落」となります。このように道迷いに伴って起こる「転・滑落」事故は、奥多摩で非常に多いと思われます。=続く=
奥多摩の遭難を考える(続) ― 2017-06-29
[図2:奥多摩で「道迷い」遭難の起こった場所(黄マーカー)]
※奥多摩全域の広い範囲で起こっている。具体的には、川苔山・本仁田山、鷹ノ巣山、長沢背稜、三頭山の各ルートから支尾根~沢筋へ外れて迷っている
≪奥多摩の遭難を考える(2)≫
奥多摩の遭難で最悪のパターンのひとつは、次のように起こります。
(1) 分岐を誤り、正規ルートを外れる(道迷い)
(2) 誤ったルートを下り続ける(道迷い)
(3) 急崖、岩場、沢などに出て行動不能(道迷い遭難)
(4) 道迷いの途中で転・滑落して、負傷または死亡(転・滑落遭難)
道迷いのとき、できるだけ早期に「引き返す」ことで被害を少なくできます。
[最良]………(2)で、下るのをやめて引き返す(決断は早いほどよい)
[まあまあ]…(3)で、稜線方向へ登り返す。必要があればビバーク
[仕方ない]…(3)で、行動を中止して救助要請
[最悪]………(4)で、救助要請
こうして、今ここで答を言うのは簡単です。しかし、これを道迷いの現場で実行することはかなり難しいかもしれません。遭難への心理が絡まっていくからです。
ポイントは「引き返す」ことなのですが、これがなかなか難しいのです。
「道迷い」状態に入りかけているとき、人間の心理はそれを打ち消して、通常どおりに行動しようとします。「迷っていない(いるはずがない)、このまま進もう」と、正常な心理はそう考えます。心理学用語でいう「正常性バイアス」が働くわけです。
でも、時間の猶予はそんなにありません。30分も下ってしまうと、そこから戻って登り返すことは相当困難に感じるはずです。(2)の「下り続ける」は、10~15分を限度にやめることです。そうすれば登り返しは30分程度ですむでしょうから。
15分を越えて20分、30分と下ることも簡単にできますが、下れば下るほど道迷いの罠に囚われていって、引き返す困難度が増していきます。……そういう道迷いに対する知識、≪リスク感覚≫を持っていることが、最後に自分を守ってくれるのだと思います。
*
講演では、こうして「道に迷わない」意識のほうへ深入りしてしまったのですが、あまり説得力なかったかと、終わってから反省してしまいました。もっと、遭難事例とか、GPSの活用とか、具体的な話が求められていたのかなと。
ともあれ、緊張する講演が終了しました。
※奥多摩全域の広い範囲で起こっている。具体的には、川苔山・本仁田山、鷹ノ巣山、長沢背稜、三頭山の各ルートから支尾根~沢筋へ外れて迷っている
≪奥多摩の遭難を考える(2)≫
奥多摩の遭難で最悪のパターンのひとつは、次のように起こります。
(1) 分岐を誤り、正規ルートを外れる(道迷い)
(2) 誤ったルートを下り続ける(道迷い)
(3) 急崖、岩場、沢などに出て行動不能(道迷い遭難)
(4) 道迷いの途中で転・滑落して、負傷または死亡(転・滑落遭難)
道迷いのとき、できるだけ早期に「引き返す」ことで被害を少なくできます。
[最良]………(2)で、下るのをやめて引き返す(決断は早いほどよい)
[まあまあ]…(3)で、稜線方向へ登り返す。必要があればビバーク
[仕方ない]…(3)で、行動を中止して救助要請
[最悪]………(4)で、救助要請
こうして、今ここで答を言うのは簡単です。しかし、これを道迷いの現場で実行することはかなり難しいかもしれません。遭難への心理が絡まっていくからです。
ポイントは「引き返す」ことなのですが、これがなかなか難しいのです。
「道迷い」状態に入りかけているとき、人間の心理はそれを打ち消して、通常どおりに行動しようとします。「迷っていない(いるはずがない)、このまま進もう」と、正常な心理はそう考えます。心理学用語でいう「正常性バイアス」が働くわけです。
でも、時間の猶予はそんなにありません。30分も下ってしまうと、そこから戻って登り返すことは相当困難に感じるはずです。(2)の「下り続ける」は、10~15分を限度にやめることです。そうすれば登り返しは30分程度ですむでしょうから。
15分を越えて20分、30分と下ることも簡単にできますが、下れば下るほど道迷いの罠に囚われていって、引き返す困難度が増していきます。……そういう道迷いに対する知識、≪リスク感覚≫を持っていることが、最後に自分を守ってくれるのだと思います。
*
講演では、こうして「道に迷わない」意識のほうへ深入りしてしまったのですが、あまり説得力なかったかと、終わってから反省してしまいました。もっと、遭難事例とか、GPSの活用とか、具体的な話が求められていたのかなと。
ともあれ、緊張する講演が終了しました。
最近のコメント