那須第1次報告書(1) ― 2017-07-19
■晴
6月30日に発表された、那須雪崩事故の中間報告書(第1次報告書)を読みました。
実際に読んでもらえばわかることですが、報告書は遭難事故に関連した膨大な事実関係を、軽重の評価が入らないように配慮しつつ、ほぼ時系列で丹念に記載しています。生徒の個人名は完全に伏せられ、講師の教員名は欧字で書かれています。年齢などの個人情報に属するものは記載されていません。
最初の部分で遭難事故の概要と、事故検証の過程が説明されています。
続いて「4」以降で、調査された事実関係が記載されています。まず、(1)講習会概要、(2)高体連と登山専門部、(3)春山安全講習会、(4)講習会実施までの経緯、(5)講習会実施内容――の順番で記載されています。
ここまでは遭難事故発生以前のことです。通常の山岳遭難の報告書であれば「登山計画」について説明する部分にあたります。そして、ここまでの事項について項目(6)を立てて、「これまでにわかったこと」及び「問題点等」としてまとめています。
ここには問題点として指摘された項目のみ列挙しますので、詳しく知りたい方は報告書を読んでください。
ア.伝統的行事への慣れによる危機管理意識の低さ
イ.講習会の計画実施に関するチェック及び指導体制の欠落
ウ.班構成における生徒と講師の所属の不一致
エ.講師の選定基準の曖昧さ
オ.組織体制や意思決定・情報伝達方法等に対する共通理解の不十分さ
ここに書かれているのは、遭難事故発生の伏線となった重要なことです。
遭難事故そのものの検証に先立って、講習会を主催した高体連登山専門部の組織と講習会の実態について、厳しい指摘が行われています。遭難事故を実際に起こしたのは個々の人間のミスによってですが、その背景にあった組織の問題点が改められなければ、担当する人間が変わっても、事故は再びくり返されるのではないでしょうか。
個人の責任追及だけで終わらせるのではなく、組織の構造的な問題と遭難事故発生との影響関係まで踏み込んでいる点は、検証委員会の視点の確かさを感じました。(続く)
6月30日に発表された、那須雪崩事故の中間報告書(第1次報告書)を読みました。
実際に読んでもらえばわかることですが、報告書は遭難事故に関連した膨大な事実関係を、軽重の評価が入らないように配慮しつつ、ほぼ時系列で丹念に記載しています。生徒の個人名は完全に伏せられ、講師の教員名は欧字で書かれています。年齢などの個人情報に属するものは記載されていません。
最初の部分で遭難事故の概要と、事故検証の過程が説明されています。
続いて「4」以降で、調査された事実関係が記載されています。まず、(1)講習会概要、(2)高体連と登山専門部、(3)春山安全講習会、(4)講習会実施までの経緯、(5)講習会実施内容――の順番で記載されています。
ここまでは遭難事故発生以前のことです。通常の山岳遭難の報告書であれば「登山計画」について説明する部分にあたります。そして、ここまでの事項について項目(6)を立てて、「これまでにわかったこと」及び「問題点等」としてまとめています。
ここには問題点として指摘された項目のみ列挙しますので、詳しく知りたい方は報告書を読んでください。
ア.伝統的行事への慣れによる危機管理意識の低さ
イ.講習会の計画実施に関するチェック及び指導体制の欠落
ウ.班構成における生徒と講師の所属の不一致
エ.講師の選定基準の曖昧さ
オ.組織体制や意思決定・情報伝達方法等に対する共通理解の不十分さ
ここに書かれているのは、遭難事故発生の伏線となった重要なことです。
遭難事故そのものの検証に先立って、講習会を主催した高体連登山専門部の組織と講習会の実態について、厳しい指摘が行われています。遭難事故を実際に起こしたのは個々の人間のミスによってですが、その背景にあった組織の問題点が改められなければ、担当する人間が変わっても、事故は再びくり返されるのではないでしょうか。
個人の責任追及だけで終わらせるのではなく、組織の構造的な問題と遭難事故発生との影響関係まで踏み込んでいる点は、検証委員会の視点の確かさを感じました。(続く)
那須第1次報告書(2)=終 ― 2017-07-19
次の(7)と(8)は、報告書の中心的な部分と思われます(報告書では軽重をつけていません。あくまでも私の捉え方として)。ここには事故発生当日、3月27日の状況が詳細に報告されています。講習会3日目(最終日)は、生徒計46人、教員9人で実技講習が行われました。そのうち5班は下部のゲレンデ内にいました。樹林帯斜面より上部に登った1~4班の生徒計40人、教員8人が雪崩の被害に遭いました。
各班はそれぞれの(主講師の)判断で自由に行動していました。何の訓練のために、どのルートを登下降するかは、明確に決められてはいませんでした。また、雪崩も含めて危険箇所などの共通認識はありませんでした。
講習内容を主講師に一任されている状況の中で、先行していた1班は樹林帯を登り切ってまだ時間に余裕があったため、さらに上部をめざしました。そこは上部に「天狗の岩」の岩峰が見えるオープンな(樹木などがない)斜面です。事故発生後に専門家が「典型的な雪崩斜面」であると指摘した場所です。
8時40分、傾斜がやや急になる手前で止まりました。主講師が「戻ろう」と指示すると、複数の生徒が「岩まで行きたい」と言い、「天狗の岩」まで登ることにします。
8時43分、雪崩が発生して1班全員が流されました。樹林帯を抜けて上部に来ていた2~4班も雪崩を受けましたが、自分たちで脱出するか救助することができました。その後2~4班の教員らは1班の救出作業を行う一方、無線機で本部への連絡を試みますが通じず、携帯電話は低温のため使用できませんでした。
1班の行動に関する記述以後、報告書の内容は詳細を極めています。2~5班それぞれの行動、事故後のセルフレスキュー、連絡と混乱、遅れた救助要請、各高校への連絡、保護者への連絡、逆に保護者側の受け止めと行動、消防や山岳救助隊の行動と、さまざまな調査された事項を省略なしに淡々と記載しています。遭難事故の発生がどれほど多くの人々の流れと混乱を引き起こすことになるかが知られ、事実のもつ重さに圧倒されます。
最終的に、心肺停止状態8人、重症~中等症7人(低体温1、低体温・腹腔内出血1、脊髄損傷疑い1、胸痛・気胸疑い1、左大腿部痛3)、軽症33人が、病院に搬送されました。
雪崩発生が、1班の行動により起こされた人為雪崩か、自然発生的なものだったかは、現時点では不明とされています。そして、より重大な事実として、現場にいた48人、さらには下にいた5班の生徒・教員、本部にいた責任者教員も、講師・生徒全員が雪崩の危険性についてほぼ認識していなかったことが明らかになりました。
中間報告書は事実関係を明らかにすることに重点が置かれています。9月の最終報告書では事故の発生原因や改善点を集約した提言としてまとめられるということです。
各班はそれぞれの(主講師の)判断で自由に行動していました。何の訓練のために、どのルートを登下降するかは、明確に決められてはいませんでした。また、雪崩も含めて危険箇所などの共通認識はありませんでした。
講習内容を主講師に一任されている状況の中で、先行していた1班は樹林帯を登り切ってまだ時間に余裕があったため、さらに上部をめざしました。そこは上部に「天狗の岩」の岩峰が見えるオープンな(樹木などがない)斜面です。事故発生後に専門家が「典型的な雪崩斜面」であると指摘した場所です。
8時40分、傾斜がやや急になる手前で止まりました。主講師が「戻ろう」と指示すると、複数の生徒が「岩まで行きたい」と言い、「天狗の岩」まで登ることにします。
8時43分、雪崩が発生して1班全員が流されました。樹林帯を抜けて上部に来ていた2~4班も雪崩を受けましたが、自分たちで脱出するか救助することができました。その後2~4班の教員らは1班の救出作業を行う一方、無線機で本部への連絡を試みますが通じず、携帯電話は低温のため使用できませんでした。
1班の行動に関する記述以後、報告書の内容は詳細を極めています。2~5班それぞれの行動、事故後のセルフレスキュー、連絡と混乱、遅れた救助要請、各高校への連絡、保護者への連絡、逆に保護者側の受け止めと行動、消防や山岳救助隊の行動と、さまざまな調査された事項を省略なしに淡々と記載しています。遭難事故の発生がどれほど多くの人々の流れと混乱を引き起こすことになるかが知られ、事実のもつ重さに圧倒されます。
最終的に、心肺停止状態8人、重症~中等症7人(低体温1、低体温・腹腔内出血1、脊髄損傷疑い1、胸痛・気胸疑い1、左大腿部痛3)、軽症33人が、病院に搬送されました。
雪崩発生が、1班の行動により起こされた人為雪崩か、自然発生的なものだったかは、現時点では不明とされています。そして、より重大な事実として、現場にいた48人、さらには下にいた5班の生徒・教員、本部にいた責任者教員も、講師・生徒全員が雪崩の危険性についてほぼ認識していなかったことが明らかになりました。
中間報告書は事実関係を明らかにすることに重点が置かれています。9月の最終報告書では事故の発生原因や改善点を集約した提言としてまとめられるということです。
『登山白書 2017』 ― 2017-07-20
〔『登山白書2017』富士山の遭難発生マップ〕
■晴
2年目の『登山白書』が、山と溪谷社から刊行されました。
初年度の昨年は、業界・関連団体がターゲットの高額書籍として、1万円近い値段で販売されました。今年はページ数を抑えた廉価版として一般販売されるそうです。販売戦略のことはわかりませんが、一般登山者が手の届く値段で、多くの人に読まれるのは良いことだと思います。願望を言えば、大型本で毎年1冊ずつ場所を取られていくことを考えると、デジタルツールで読めて、データもある程度利用できたほうが嬉しいかもしれません。
白書の中で私は、各年の遭難状況まとめを担当しています。今年もギリギリのタイミングで警察庁データが発表され、それに基づいて、たぶん一番最後の原稿を書きました。
2016年の山岳遭難の特徴を挙げてみましょう。
(1) 遭難発生数がわずかながら減少した
大震災年(2011年)を例外とすれば、2004年以来12年ぶりに遭難発生数が減少しました。わずかではありますが、これまでになかったことです。
(2) 遭難者のうち死亡者割合が低下した
昨年まで11%台でしたが、10.9%で史上最低となりました。ちなみに、交通事故被害者中の死亡者割合は0.63%ですから、登山事故のリスクはきわめて高いといえます。
(3) 遭難増加傾向の高い年代は70代以上と30代
登山人口の中心世代と思われる40~60代は、何らかの工夫をして遭難を抑制していることがうかがえます。山岳遭難の情報に対して敏感であると推測されます。
(4) 道迷い遭難は減少傾向が現われる
遭難種類の比率として「道迷い」が低下、「疲労」が大幅にアップしています。現代の登山者は体力に問題があるのでしょうか?
一年のまとめに続いて、2016年中に発生した主要遭難事例のリストと、発生場所の地図を掲示しています。データの固まりなので読むのは骨が折れるでしょうが、山岳遭難多発の状況をボリュームとして感じてもらえるのではないでしょうか。
このような全国レベルのデータを一括して公開できる場所はほかにありません。発表の場を設定していただいている『登山白書』に、とても感謝しています。
■晴
2年目の『登山白書』が、山と溪谷社から刊行されました。
初年度の昨年は、業界・関連団体がターゲットの高額書籍として、1万円近い値段で販売されました。今年はページ数を抑えた廉価版として一般販売されるそうです。販売戦略のことはわかりませんが、一般登山者が手の届く値段で、多くの人に読まれるのは良いことだと思います。願望を言えば、大型本で毎年1冊ずつ場所を取られていくことを考えると、デジタルツールで読めて、データもある程度利用できたほうが嬉しいかもしれません。
白書の中で私は、各年の遭難状況まとめを担当しています。今年もギリギリのタイミングで警察庁データが発表され、それに基づいて、たぶん一番最後の原稿を書きました。
2016年の山岳遭難の特徴を挙げてみましょう。
(1) 遭難発生数がわずかながら減少した
大震災年(2011年)を例外とすれば、2004年以来12年ぶりに遭難発生数が減少しました。わずかではありますが、これまでになかったことです。
(2) 遭難者のうち死亡者割合が低下した
昨年まで11%台でしたが、10.9%で史上最低となりました。ちなみに、交通事故被害者中の死亡者割合は0.63%ですから、登山事故のリスクはきわめて高いといえます。
(3) 遭難増加傾向の高い年代は70代以上と30代
登山人口の中心世代と思われる40~60代は、何らかの工夫をして遭難を抑制していることがうかがえます。山岳遭難の情報に対して敏感であると推測されます。
(4) 道迷い遭難は減少傾向が現われる
遭難種類の比率として「道迷い」が低下、「疲労」が大幅にアップしています。現代の登山者は体力に問題があるのでしょうか?
一年のまとめに続いて、2016年中に発生した主要遭難事例のリストと、発生場所の地図を掲示しています。データの固まりなので読むのは骨が折れるでしょうが、山岳遭難多発の状況をボリュームとして感じてもらえるのではないでしょうか。
このような全国レベルのデータを一括して公開できる場所はほかにありません。発表の場を設定していただいている『登山白書』に、とても感謝しています。
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