トムラウシ遭難、ついに書類送検2017-12-31

■曇、晴れ間あり(秋田にて)
 2009年7月に起きたトムラウシ遭難は、悪天候の中、予定通りの登山を強行したツアー登山グループが遭難し、ツアー客7人、ガイド1人が死亡しました。夏山シーズン中に起きた遭難事例としては最大規模の一つとされています。また、登山史上「中高年登山ブーム」(1980年代後半~2000年代半ば)の時代に起こった最悪の遭難でもありました。
 2017年12月27日、北海道警察が、この遭難の男性ガイド3人(1人は死亡)と、ツアーを企画した旅行会社アミューズトラベルの社長(当時)の計4人を、業務上過失致死傷の疑いで書類送検したというニュースが飛び込んできました。事故発生から8年後、公訴時効(10年)まで2年を切っての書類送検でした。
 トムラウシ遭難は非常に衝撃的なものでした。ガイドの責任も当然ではありますが、無謀な登山を強いる原因となったのは、旅行会社と雇用されるガイドとの力関係なのだと、多くの人は感じていました。しかし、それを発言することは難しかったのです。なぜなら、旅行会社と遭難事故の関係を立証することは一般人には難しく、根拠の明確でない発言は名誉棄損で訴えられる可能性があります。旅行会社側からは一切の関連情報は公開されていませんでした。
 事故後、検証委員会がつくられ、調査報告書(中間・最終)が発表されました。この検証委員会は日本山岳ガイド協会が設置し「事故関係者とは利害関係のない第三者で構成した特別委員会」としています。しかし、国や地方自治体が設置する公的な第三者委員会ではありません。また、ガイド協会は引率責任者であったガイドの所属団体であり、委員は全員登山界の著名人でした。登山分野以外での有識者(たとえば法律分野、地元自治体、救助関係者のように)が含まれない意味では、本当に客観的な調査が可能かどうか疑問がありました。報告書は多くの事実や課題を明らかにしましたが、アミューズトラベルに対する調査が行われたかどうかは確認できませんでした。本報告書は、遭難発生と旅行会社との関係が十分には解明できていないと私は思いました。
 予想されたように、報告書発表を境にトムラウシ遭難への社会的な関心は一段落し“騒ぎ”は鎮まってゆくことになりました。報告書を作成した委員の中には信頼の厚い登山界の識者が名を連ねていました。その報告書をベースにした書籍も刊行され、だれでも読むことができます。すべてが一段落して遭難は過去のものになりつつあると思われました。
 しかし、トムラウシ遭難は何も解決されていないと、私は考えていました。
 リーダーガイドは遭難時に死亡、自身も低体温症となったサブガイドは雑誌にインタビュー記事を公表し、自分はツアーを手伝っただけで責任はないと主張しました。もう1人の一番若い地元ガイドは、精神に変調をきたして捜査不可能との噂が聞こえていました。そのような中で、トムラウシ事故の翌年、アミューズトラベルは中国・万里の長城ツアーで再び死亡事故を起こして、その後解散してしまいました。
 このまま終わるしかないのか……と、ほぼ諦めていたのが正直なところでした。
 2018年は特別な年になりそうな気がする、そういう年の暮れになりました。